現代日本社会にみられるスピリチュアリティの 意義と展開 -ドラマを中心にー

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المؤلف

専任講師 日本語日本文学科 人文学部.カイロ大学

المستخلص

本論の狙いは、近年の日本のドラマを通じて、宗教の代替的役割を果たしていると思われる、スピリチュアリティの意義と展開を探究することである。それによって、一般的には無宗教とも言われている日本人の宗教観及び形而上的なものの見方を解明したい。つまり、日本人は特定の宗教を信じないとされているが、「よき死」には大いに関心があると言えるのではないか。
江戸時代までの日本は神仏混交であり、神社と寺院の違いでさえ明確ではなかった。神であれ、仏であれ、日本人にとって死後は神になるという考え方が浸透していた。明治になって「死生観」という概念自体が生まれたが、それは近代化によって人々が個人化し、それによって死も共同体的な感覚から飛び出して、個人の中に内省化された。日本では現代も、死は個人的なもの、孤独なものとして受け止められているが、根底には、「ご先祖さま」という共同体的祖霊観が残っていると思われる。
近年は、仏壇や神棚がない家も少なくない。かつてのような祖先崇拝的な儀礼も薄れつつある。そうした伝統的な宗教儀礼が後退する代わりに登場したのが、「アロマテラピー」や「ヒーリング・ミュージック」、「ヒーリングアート」、「リトリート」、「瞑想」、「グリフケア」、「スピリチュアルケア」といった非日常的な演出であり、「癒し」の体験である。日本社会で、「目に見えないもの」に積極的な価値を見出し、「癒し」や「心の安らぎ」というスピリチュアル的なものに対する志向性が強まっているように見受けられる。
背景の一つは、戦後の経済成長期が終わり、1990年代初めにバブル経済が崩壊して以降、多くの人々が生きる目的を喪失したことと深い関係があると思われる。それと並行する形で、2001年以降に製作されていた数多くのドラマに、霊的な進化また霊的な成長が反映された。そうしたトレンドドラマが、日常的、物質的なストレスから日本人の精神を解放した影響は大きいのではないか。人間は進化にともなって、呪術またはシャーマニズムから宗教へ進み、自然崇拝、多神教から一神教に進化すると指摘している。しかし、なぜ科学が進歩した現代では、呪術などを扱ったトレンディドラマが流行することになったのか、今日のスピリチュアルブームを支える原動力は何か、こうした点は未解明のままである。
本論は、2005年に製作された重要なトレンディドラマである「雨と夢の後」を取り上げて解説しながら、スピリチャリティが社会現象となったきっかけを探り、そこに見られる死生観を明らかにしたい。
キーワード:スピリチュアリティ、宗教
 
 
本論は、五つの部分からなり立っている。
まず、序論には、スピリチュアリティの意義を明らかにする。そのあと、「雨と夢の後に」というドラマのあらすじと背景を説明する。次にドラマにみられるスピリチュアリテイの定義と範囲をあきらかにする。その後、「スピリチュアリテイ」の概念が提示され、神道・密教などの伝統的な信仰における死後の捉え方、新宗教とスピリチュアリテイとの関係を探ってみる。最後に論文のまとめ